ほんとのうた(仮題)
第12章 城崎家の人々
俺の実家(と呼んでいいかわからんが……)は、俺の住むアパートから車で一時間ほどの距離にある。間に小さな町を挟んで、その先の市内であるのだが――。
「ここって――?」
車を降りて、真が不思議そうにそう口にしたのも無理はなかった。
「オジサンの家――じゃあ、ないよね?」
その言葉通り、そこはどう見ても個人の住居ではなく――というか『料亭』と記された看板が丁寧に門の横に出されている。
「なんか、しらね―が。一席、設けられてしまってな……」
その店は地元では割と名高い高級料亭であり、俺も一応は認識していたが、なにせ無駄に敷居の高いことから、訪れるのは今回が初めてだった。
実際にその店構えを前にすると、流石に場違いな感じが漂ってくる。普段の俺が外食で訪れる店と比べたら、雲泥の差だ。
そんあことを思いつつ自分の方はともかくとして、俺は隣に立つ真の姿を改めてじっと眺めてみた。
「ん、なぁに?」
俺の視線に、そう反応している真自身は、まるで臆した様子もなくて。しかしながら、その服装はあまりにアンバランスなものだった。
髪を上げ帽子を目深に被せた上に、更に眼鏡とマスクを着用させている。服装は全体的にダボダボにして、身体のラインをぼやかしているのだが。
ボーイッシュという次元ではなく、男か女かなるべくわからないようにしたいとの努力の跡は滲むが、はっきり言ってそれは望みすぎであろう。
まあ、それは万一にも身バレすまいと、俺の方で指示したことである。しかしこうして品の良い料亭の構えを前にしてしまえば、その違和感は否応なく際立っていた。