ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
その言葉には、一抹の不安を禁じ得ない。だが俺はとりあえず真のいう「いいこと」ってのを、まずは黙って聞いてやることにした。
「今の私には、時間が必要なんだ。簡単に言えば、自分を見つめ直す時間が……」
時間――ときたか。いかにも芸能人風情が口にしそうなフレーズだが……。
「その意味では、私たちって似た者同士? ――なのかもって。ホラ、オジサンも無職じゃ時間を持て余すだろうし……」
持て余すつもりは、ねーよ。あと、人気若手歌手と無職四十男との、どの部分を取り出せば共通点を見出せるのか、その点に無理がありすぎ……。
「そんなわけで、さ――」
だから、どんなわけだよ?
と、そろそろ脳内でのツッコみに、限界を感じ始めた時。
真はニッコリと笑うと、臆面もなくとんでもないことを言ってのけた。
「暫くの間、この部屋で――私と一緒に暮らしてみない?」
「なん、ですと?」
あまりにも理不尽で理解不能な“提案”を受けて、俺は間抜けな面を晒すしかなかった。あと、言葉使いも微妙に変になってしまってるし……。
話にまるでついていけてない俺を尻目に、真はまるで無遠慮に自分勝手な理論を展開中だ。
「ね、どうかな? オジサンの次の仕事が見つかるまででいいんだよ。なにも持たずに来ちゃったから今すぐは無理だけど、お礼なら後で必ずするし」
いや……ちょ、ちょっと、待ってくれ。
激しい頭痛が、俺を襲っている。
「そんな心配そうな顔しないで。こう見えても私って結構お金稼いでいるんだよ。アハ、無収入になるオジサンには願ってもない話じゃないかなぁ。我ながら、妙案?」
そりゃ、さぞや稼いでることだろうよ。だが俺の方は別に、そんなことを期待してるわけじゃなくてだな……。