ほんとのうた(仮題)
第12章 城崎家の人々
弟の嫁に顔を合わせるなんて思ってもいないものだから、それも仕方が無かった。
「ええ、以後――どうぞ、顔見知りを」
見たところの高崎香苗は、アラサーくらいの清楚でつつましやかな女性であるように思う。が、当然のことではあるが実際にそうであるかは、まるで不明だ。そもそも――。
「香苗さん――そんな風に言うけれど、顔見知りになるのかは、まだわからないじゃない」
「えっ、お義姉さん――それは、どういう意味なのでしょう?」
意外そうにして香苗さんが視線を向けたのは、真向いの席に座る『義姉』だった。
城崎律子(りつこ)は長兄・揮市の嫁であり、こちらとは俺にも面識があった。当時はまだ家族として、兄貴の結婚式にも出ていたことだし……。
「それは、だって――」
そんなわけで見知ってはいるだけに、俺としてはコッチの方が断然苦手である。彼女が口を挟んだ理由を見れば、その辺りはわかってもらえるのかもしれない。
「これから何をお話になるのかは、存じ上げませんけれども。現時点では家族でもない他人であるのだから、御近づきになる必要もないと思うの」
「お義姉さん、そんな言い方なさらなくても……」
「あら、気を使うことないわよ。ねえ――裕司さん?」
こちらは熟練の四十半ばとしての女性の貫録を醸し出すように、その社長夫人は末席を流し見るようにして俺に向かって訊ねてきた。
「ハハ……ええ、構いませんよ」
この兄嫁、相変わらずきっついなぁ……。そんな風に話を振られたって、とりあえず俺は苦笑するしかないのである。