ほんとのうた(仮題)
第12章 城崎家の人々
真の声に邪気を払うという類の、特殊効果があるのかどうかは知らない。否、まあ普通に考えて、そんなものはなかろうとは思う。
第一、本人は自分のうっぷんを晴らしたに過ぎないのだから、そこに聖なる力が宿るはずはなかった。
なんて、無意味なことを軽く考察してみたくなるくらいには、俺にとって目の前で起こった事象は不可解なものである。
親父が笑った。言ってみれば、それだけのことなのだが。それを、親父がどういう人間かを知らない第三者に説明することは、とても難しいのである。
少なくとも腹になにかを含むようなそれではなく、これほど愉快そうに笑った親父を見るのは、恐らく初めてではなかったか……。
そう思うと同時――俺は先程から覚えていた違和感の正体に、気づき始めていたのかもしれない。
そう――たぶん、親父は――少し、変わったようだ。
家族の誰もが意外そうに見守る中で一頻り笑い終えた親父は、自らの膝をポンと一つ叩くと、身体を前のめりにして、俺の方に向いて話した。
「裕司――どうやら、助けられたようだな」
その眼を睨み返し、俺も迷うことなく答える。
「ああ、わかっているさ」
真は来た時とは異なり、今は俺の後ろにドンと腰を据え堂々と佇んでいる。
親父の言う「助けられた」の意味が、俺の感覚とは異なっていることは承知していた。それでも認めて力を借り、ようやく俺は親父と対峙できているのだった。