無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

「……」

　その背中を、思わず抱きしめたくなった。言えないと言ったはずの言葉を口にして、全てを滅茶苦茶にしてしまいたくなった。

　けれども、それが互いのためとならないことは、出会った当初から決まりきっている。

　一つ、物語というもの。それが、人の常識を覆すものであるとしたのならば、ある意味ではその『決まり事』を破るのも、それはそれで一興とはなろうか。

　だが、俺は大人として――ありふれた只の大人として、それを行うことを、やはり止めよう。勇気がないとか、そういう話ではないのだ。

　そして、これは――俺の生き方という物語。敢えて恰好をつけて、言うのであれば――。

　今まで、俺の傍らで真が笑ってくれていたのは、この関係に期限が限られていたからである。それは間違っているようで、至極正しいものの見方であろうと思うのだ。

　そう、俺は最初から、それを諦めなければならなかった。

　だからこそ、真が魅力的であるほどに困惑してしまう。その天真な姿に心を揺るがされる度に、覚悟をより大きく持つ必要があった。

「ほら――真」

　寝そべった背中に、手を差し伸べる。もう困らせるなよと、そんな気持ち。しかし、とっくに心を決めているはずの俺を、またしても彼女は惑わせるのだ。

「あっ……！」

　伸ばした腕を強く引かれ前のめりにバランスを崩した俺は、ベッドの上に倒れ込む。その拍子、仰向けとなった真の胸の弾力の中に顔を埋めていた。