ほんとのうた(仮題)
第14章 (仮題)
盛り上がりが一区切りつき、少し落ち着いた雰囲気の場内。真はマイクを片手に呼吸を整えた後、ややトーンを押さえた声で語り始めていた。
『みんな、本当にありがとう。あんなことがあった後なのに、こんなにも暖かい歓声――凄く凄く、ありがとう!』
感謝を口にした彼女を励ますように、会場の至る場所から暖かな拍手や声が響く。
が――。
『なのに……ゴメン……』
ザワ……。
俯いて口にした謝罪の言葉に、俄かにファンの間でざわめきが広がってゆく。
そして――
『今日、唄った唄たちに……私は、背を向けてしまっていたの……』
その意味がわからなかったのだろう。先程までの盛り上がりが嘘であるように、ファンたちは戸惑い静まり返っていた。
それにも、まっすぐに前を向いたまま――
『みんなが、こんなにも好きでいてくれた唄たちを……この私自身が否定してしまったの。ゴメンね……って。いくら謝っても許されることじゃないけれど、ホント――ゴメン』
この大舞台に立つヒロインは、そう続け、深々と頭を垂れた。
十秒、二十秒――と、そのまま時間が過ぎる中で、その異様な光景を前にしたファンたちが耐え切れずに次々と口を開き始める。
「どうしたの? ふらの!」
「どういうことなのか、話してくれよ!」
「いろいろ吹っ切って、帰って来たんじゃなかったの?」
マイクに拾われた、幾つかの叫びを耳にしながら。
「真……?」
テレビの画面を介しても伝達する緊張の最中で、俺はその後の展開をじっと見守っていた。