ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
一体、なにをわかってくれたというのだろう。否、この感じだと、きっと俺の気持ちなんて、ビタ一文理解されていないはずだ。
そして俺の予想は、より悪い形で当たってしまう。
「な……なにしてる、のっ?」
パサッ――。
真は徐に脱ぎ去ったタンクトップを床に落とす。更には、すっかり凍りついている俺の目の前で、いそいそとショートデニムを細い足首まで下ろしてしまった。
「ハイ、いいよ」
上下の下着は刺激的なものではなく、動きやすそうな機能性重視のタイプ。それだけを身につけた姿の真は、まるで岩場に佇む人魚姫のように、しな垂れたポーズを取った。
最早、気のせいでは済むまい。彼女はどうあっても、この部屋に居候する腹積もりである。そのためなら、自身の身体を差し出すことさえ厭わない心構えだ。
「……」
俺の喉が、唾を飲み下しゴクリと鳴った。
この娘の貞操観念は、一体どうなっているのだろうか。否、そんなもの初めから持ち合わせていないのかもしれない。
これぞ『ザ・芸能界の闇』? やはり『枕営業』は、その世界の常識だとでも?
たまにコンビニで見かける下世話なゴシップ雑誌の見出しが、俺の脳裏を駆け巡っていた。
「オジサン――なんか固まっちゃってるけど、平気?」
コクリ、と俺は無言のまま頷く。
「そう。じゃあ――するの?」
プルプルと、それには流石に首は横に。
「なぁんだ。じゃあ、私――とりあえず、シャワーでも借りようかな」
「ああ、うん――――え?」
ようやく言葉を取り戻しつつも、まだ頭の回転の方は回復してないらしく。バスルームへと消えゆく真を、俺は只々呆然と見送るより他はないのだ。