ほんとのうた(仮題)
第14章 (仮題)
「……」
別に俺なんかが、よく知りなどしないし知った風なことは言えない。
だが、その時の真の姿を見て、俺は思うのだ。
歌声とは即座に心地よく、人の耳を鳴らすものかもしれない。
曲の旋律であったりリズムであったり、それらは身体の最中より揺らしてゆく衝動を生むものとなろうか。
だとすれば、今。真の唄は――?
想いの詰まった、その唄が――
人々の心へ届くまでに、どれだけの時間を要するのだろう――?
数秒か? 数分か? それとも、いくらたっても伝わらないことだって、あろうとは思う。
が、それでも――俺は、確信した。
天野ふらのという殻を破り、祖母に与えられたその名の、素顔のままに。
当然ながらその心は、大きな覚悟に満ちているはず。
仮に俺への想いを綴ってくれたものだとしても、それを“真”の名のもとに広く轟かせなければならない。
一人の男の胸を熱くするだけでは、それは勿体なさ過ぎるから。
そうだ――真は、もっと大きく飛び立てるんだ。
俺は、感じて――
「真――大丈夫さ」
画面の中の挫けそうな真に、そう声をかけた。
そして――
――パチ。
項垂れていた真は、その音を耳にしている。
――パチ、パチ、パチ。
小さくても確実に拡がりを見せる変化に、遅れて気がついた彼女は、ようやくゆっくりと顔を上げた。
それから、驚いたように見つめている。
ああっ―――――!?
やがて大観衆の拍手と歓声の渦が、更に大きなうねりと化した。