ほんとのうた(仮題)
第15章 たとえば――
「今年はあと少しの辛抱だから……来年は必ず。そうでないと、先に俺が熱中症でやられるだろうし……」
「そんなに暑さが苦手でしたら、夏の初めにさっさと設置すればよかったのでは?」
「だって……今年は工場内のエアコン完備だけで精一杯。経理を任せているんだから、その辺りの事情は察してくれるでしょう?」
「承知してます。ですから、来年こそはお願いいたします、と――」
そう言って席を立った中島さんに、何気に目線を送った。その背中に汗が滲みシャツが透けていることを認め、俺は不用意にこう口走ってしまう。
「そうだなあ……中島さんも汗っかきのようだから、大変そうだね」
そしたら――
「――!?」
中島さんは自分の両腕で胸元を隠すように肩口を窄めると、信じられないとばかりに非難の眼差しを俺の方に向けた。
その反応を見るや、ヤバいぞ、と自らの迂闊さを痛感する。
「い、今のは――セクハラですよね? それに加え、パワハラ? ついでに、モラハラも?」
「いやっ……少なくとも、あとの二つは違うと思うけど……」
慌ててそう言ったのを聞き届けてから、中島さんはキッパリとこう言い切った。
「つまり、セクハラはお認めになるのですね。では――社長を相手取り、私、セクハラ訴訟を起こすことにいたします」
「えっ……あの……直接、謝るからさ。できれば、相手取らないでくれません……?」
表情を強張らせながら、おそるおそるご機嫌を窺うと――
「――ほんのジョークです。少しは、涼しくなれたのでは?」
中島さんは、いつものポーカーフェイス。まるでジョークを言っているとは感じさせないテンションで、そんな風に言うのだった。
「あはは……お蔭様で……」
俺は思わず、苦笑いを浮かべる。