ほんとのうた(仮題)
第1章 孤独(ひとり)と逃避(ひとり)
と、それ以前に“キャピキャピ”って死語なの? ふと、そんなことが気にかかった。
歳の話をしたから、ついでに言えば俺の方は先月でついに四十の大台に乗っている。つまり、先の言葉のチョイスも、そんなわけだと察してほしいものだ。
“中年”というカテゴリーの最中に、いつの間にやらすっぽりと突入してしまったようで。だからこの時点で、敬遠されてしまう可能性は大なのかもしれない。
なにせこれから始まるのは、そこらに幾らでも転がっている、とあるオッサン――この俺の物語であるのだから。
まあ、それはともかく。そんな俺であるから十以上年下の亜樹は、なにも若作りしなくても十分に若く思え。逆に少しは年相応に落ち着いて欲しいと、そんな風に感じないでもなかった。
と、いうよりも――。
「ふぅん……なにか、あったのぉ?」
「まあ……な」
甘えた口調。煌びやかなメークの大きな瞳。それで上目使いで見つめられ、俺は苛立ちを抑えつつ、ふっとため息をこぼす。
正直、どうして彼女と付き合っているのかと聞かれた時に、俺は即答できない。否、それは言い訳に過ぎないのだろう。その理由なら、寧ろハッキリしてる。
言った端から矛盾するようで申し訳ないが、俺にとって彼女の若さはやはり魅力的なのだ。そして、身も蓋もない理由なら、もう一つあって。
「じゃあさぁ、私が元気にしてあげよっか」
亜樹は俺の首に腕を絡めると、耳元で囁きかけた。同時にその右手は、俺の胸元の辺りを頻りと撫で回しでいる。
瞬間、むせ返るような女の香りが、鼻腔にふわっと立ちこめた。
なんというべきか……。単刀直入に表してしまえば、すなわち亜樹とは、とてもエッチな女であるわけで。