ほんとのうた(仮題)
第15章 たとえば――
すなわち、そうなのだ。以前、前の会社で新規事業を失敗していたことは、少なからず俺の中にも悔いとして残されている。ならば、当時の仲間のスキルと経験を生かし、もう一度、自らの立ち上げた会社でリベンジというわけなのだ。
もちろん苦労も多いが、その分やりがいは以前の比ではない。が、その決断をした時に、俺を悩ませたのは、やはり資金である。個人でやるのなら、ある程度のリスクは覚悟するが、人を雇うとなれば当然そんな無責任なことはできない。
だから――
「親父――頼む。俺に出資してくれ」
俺はそう言って、親父に頭を下げた。少し前なら、死んでもできなかったこと。否、今だって、まるで抵抗がないといったら嘘であろう。
銀行から融資を受けた方が、その意味ではよっぽど気楽だ。だが、斎藤さんたちを迎えると決めた以上、俺の面子だけで不用意な決断はできなかった。
それに加え、あの親父が無条件で俺に金を出してくれるはずもなく。三年以内に満足な業績を上げられなければ、このちっぽけな会社を容赦なく取り潰すと、釘を刺された。仮にそうなれば、俺は大きな負債を追うことになるだろう。
だが、それは俺として寧ろ望むところ。親父とのそれまの関係を顧みた時に、そのくらい緊張感が漂う方が“上等”なんだって思うから。
そして当然、俺の申し出を受けて首を縦に振ってくれたことに対し、感謝の気持ちがないわけではない。
社長とはいったものの、その業務内容は殆ど“ナンデモ屋”である。営業で外回りもしなければならないし、生産に遅れが生じれば夜遅くまで工場に詰めなければならなかった。
その他、日々生じるあらゆる雑用の全てが俺の仕事である。