ほんとのうた(仮題)
第15章 たとえば――
まあ、忙しくさせてもらえることが、今はなによりである。お蔭様で今の処、当社は僅かながら業績を伸ばしつつあった。
ああ、あと――これは全くの余談ではあるのだが、一応の報告まで。
俺が起業したことを面白く感じなかった連中がいたようで、それは取りも直さず俺たちが辞めた会社の上層部だった。当初は「せいぜいやってろ」といった感じで様子見を決め込んでいたようだが、業績が上向いてきた頃には心穏やかとはいかなかったらしく。
「ウチのノウハウを、勝手に使用されては困りますねぇ」
そんなクレームを言いに来たのが、よりによってあの太田だったのだから、俺としても驚いた。
当然ながら「勝手に見限っておいて、今更なにを?」という、当方には絶対的な言い分がある。それ故に、相手にするのも馬鹿らしく。逆に「お前、よくここに顔出せたな」と、軽く感心してしまったくらいだ。
案の定、怒り心頭の斎藤さんたちに激しく詰め寄られた太田は、逃げ出すようにして帰って行き、それ以来、あのイヤミな面を見せることはなかった。
と、まあ――あの後、俺の過ごした一年とは、そんな感じである。