ほんとのうた(仮題)
第15章 たとえば――
「さて……午後も忙しくなるかな」
そう呟きながら、俺は何気にデスクの上のラジオをつけた。
すると――
『午後最初のリクエストは改名した後も大人気の、この女性アーティストの一曲をお届けしましょう』
「――!」
まったく不意に、その唄が俺の耳に届いてきた。
そうして聞き入ってしまった俺は、やや不用意である。そこに麦茶を持って現れた中島さんは、俺の顔を見るやビクリと後ずさりをしていた。
「しゃ、社長! なに、泣いてんすか?」
「え、いやいや……違うって!」
慌てて涙を拭いながら言うものだから、それは言い訳にすらなるまい……。
あれ以来、その意味ですっかりとツボとなる。あの曲を聞くだけで、まるでスイッチが入ったように……。四十男の涙腺の脆さを、どうか甘く見ないでもらいたいものだ。
すると――
「ああ、この曲って?」
いつの間にか中島さんも、同じくその曲に耳を傾けたよう。