ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
※ ※
「オーイ、帰ったぞ」
ドアを開け、そう声をかけるが返事はなかった。一瞬、居なくなったのかと思ったが、テレビの微かな音声を耳にし、俺は彼女の存在を認めた。
「とりあえず、服を買ってきたから――」
部屋に入りそう言いかけて、俺は期せずして言葉を止めた。
「……」
体育座りで両膝を抱え込んでいる真は、テレビの液晶画面を一心に見つめている。
それを妙に感じるながら、釣られるようにして自然とテレビに注目。放映されていたのは、昼のワイドショー番組だった。
取材先らしき芸能レポーターが、なにやら慌ただしく喋り続けていた。
『失踪した天野ふらのさんの目撃情報が、SNSに投稿された情報を元に、ネット上を賑わせ始めています。大多数は真偽の怪しいものではありますが、中には有力な情報も含まれていると思われ。特にN県S市内において、ふらのさんと思しき女性を見かけたという画像つきの投稿が、複数みられることから――』
N県S市だって――!
『――それらの情報を精査した上、当番組の取材班は新幹線にて既にS市へ到着しております。これより現地にての聞き込みを中心に、天野ふらのさんの足取りを追ってみようと思います』
オイオイ、もう来てるのかよ……。
テレビ画面には、俺のよく知る駅舎が映し出されていた。