ほんとのうた(仮題)
第3章 異常なる日常で
「ふうっ!」
デカい丼を傾げ、濃い目のスープを飲み干すと、真は満足げに息をついた。
「美味かったか?」
と、訊くと。
「別に、普通かな。不味くはなかったよ」
すっかりと喰い尽くしている割には、結構その評価は厳しいもの。
まあ、それについて文句を言うつもりはない。この店は、特に“隠れた名店”というわけでもないのだ。店構えが古臭いから、客の入りも前述の通りである。
俺がこの店に通う理由は、実はそんな処にこそある。いくら美味かろうが、客でごった返してるような店には行く気になれない。味は二の次。落ち着いて居られるということを優先してのことなのだ。
ラーメンなんて特別に不味くない限り、大概は美味しくいただけるものである。
一人で飯を食うことが多い俺は、万事がそんな感じ。寂しい男だと思われようが今更かまわないが、その点については難点もある。それは俺が好んで通う飲食店は、程なく潰れてしまうことが多いという事実。客が居ない店を選ぶのだから、まあ、それも当然か……。
「ん? なんだよ」
テーブルに頬杖をついた真が、俺の顔をしげしげと眺めている。
それに気づき、俺はその意図を訊ねた。そしたら――
「オジサンってさあ。よく見たら、割とよさげだよねー。イケメンってわけでもないけど、結構スッキリとした顔してるし」
そんなことを実に軽々しく言う真に、俺はジロリと疑念の目を差し向ける。
一応は褒めてくれているらしい。が、そんなことで鼻の下を伸ばすほど、俺は浮かれポンチではなかった。女がこんなことを言い出す時は、特に注意が必要である。