ほんとのうた(仮題)
第3章 異常なる日常で
根はきっと、無邪気ないい娘なのだと思う。だが、無邪気であることが必ずしも誉れであるとは限らない。真も二十歳を超えた大人の女なのだ。
少女のような無邪気さを残留させながらも、その身体は凶暴なまでに魅惑的である。それに加え、性に対して良く言えば開放的? ――というのか。
もしかしたら、俺がからかわれているだけかもしれないが……。
そんなアンバランスさに対して、俺はこの先どう対処すべきなのか。そう考えると、やはり同じ部屋で生活するのは、困難である気がしている。
何気にそんなことを思い、ラーメン屋を出た時だった。
「あれぇ? 新井さんじゃないですかぁ」
そんな声を耳にし、俺は右手から駆け寄るその姿を見やった。
「ああ……太田かよ」
一応そう応じながらも、俺は小さく舌打ちをしている。
太田というその男は、昨日まで勤めた会社の後輩であり。なんと表すべきか、あまり顔を合わせたくない相手であった。
そんな想いに反し、太田はにこやかな顔で近づくと、俺に続いて店を出た真を目ざとく発見して言う。
「おおっ――後ろの彼女、新井さんのお知り合いですか?」
「は? 違うよ。単なる他人だ」
俺はそう惚けながら、太田に見えない背中越しに『先に行け』と、そんな旨を手の動作で真に伝えた。
先に歩いて行く真を横目で見送ると、俺は太田を不快そうに睨む。
「なんか用か? 昨日の今日だ。久しぶりってわけでもねーよな」
「ハハハ、釣れないなあ。可愛い後輩なんですから、そんなに邪険にしないでくださいよ」
「もう、先輩だなんて思ってねーんだろ?」
「アハハ、そーっすね」
太田はニヤッと笑い、あっさりと同意していた。