ほんとのうた(仮題)
第3章 異常なる日常で
俺が調理する間。真はと言えば、至極暇そうに本棚の辺りを頻りに物色していた。なにか変な物でも見つけやしないかと、俺はその動向をチラチラと気にしていた。
べ、別にそんなにも怪しいものなど、隠し持ってはいないはずだが……。
すると暫くして、数年ぶりに稼働したオーディオが、懐かしいメロディーを奏で始めていた。どうやら棚の奥で物色していたのはCDだったのようで――。
十代から二十代にかけて俺が心酔していたバンド――その代表的な楽曲が、心地よい適度な音量で部屋の中に響き渡った。
「へえ……オジサンにしては、良い趣味かもね」
と、真は膝を抱えて座り、CDの音色に耳を傾け始めている。
「このバンド――知ってるか?」
「もちろん、名前くらいは。あ、でも――ちゃんと曲を聞くのは、これが初めてかなぁ」
「まあ、だろうな」
一部では今だ伝説視される件のバンドも、今世紀初めには既に解散している。いかに同業の畑とはいえ、世代的に真が詳しく知らないのは無理もなかった。
鍋の中の具材が、程好く煮込まれるまで――。
「――♪」
曲に合わせ真が奏でた微かな鼻歌は、至極、耳障りが良いものとなっていた。