ほんとのうた(仮題)
第3章 異常なる日常で
※ ※
「おかわり!」
「ああ、ハイハイ……」
元気な発声と共に差し出されたカレー皿を受け取ると、俺はキッチンに立ち炊飯器を開く。
あれ、確か……四合、炊いていた気がしますけどねぇ?
皿を米で満たすと、見事に空となる内釜。その底を見つめつつ、俺は内心おどけてみるのだった。まあ、それも今更か……。
「ほら、これで打ち止めだぞ」
「うん、ありがと」
真は皿を受け取ると、またスプーンでカチャカチャと音を鳴らし、カレーをせっせと口に運んでゆく。
この感じだと、今日買ってきた食材もあっという間に尽きるんだろうな。俺が破産する日も、そう遠い日ではないのかもしれない。
「……」
もうとっくに腹を満たした俺は、楽しげな真の食事風景を見つめた。不思議と嫌な気はしない。むしろ爽快にすら感じられた。
それは旺盛な子供の食欲を嬉しく思う、お母さんの気持ち――とは当然、異なる。
「なんでだろう、ね?」
口一杯に頬張った顔で疑問を発した真が、期せずして俺にその答えを教えた。
「ん……なにが?」
「オジサンと食べると、ありきたりな物でも――とても美味しく感じるの」
「ありきたりで、悪かったな……」
と、悪態をつきながらも。
一方で俺は真によって孤独を癒され始めているのだと、そんなことくらい気づいていないわけもなくて。
だからこそ逆に、この先の成り行きに不安を覚えることになるのだろう。