ほんとのうた(仮題)
第3章 異常なる日常で
俺はリモコンでテレビを消し、そっと頭を項垂れていた。部屋の中が、異様なまでに静かである。
だが、いつまでも、そんな風に落ち込んでもいられないのだ。
「オジサン――野球どうなったの?」
風呂上がりの部屋着姿(短パンジャージ下とTシャツ)の真が登場している。
俺は問われた質問を意に介さず、用件だけを早口に伝えた。
「さてと――もう、こんな時間か。俺は床でいいから、真はベッドを使ってくれ。シーツとか枕カバーとかはクローゼットの中に新しいのがあるから、適当に代えてくれていい。じゃあ、俺も風呂に入るから。疲れているだろうし、先に寝てるといいぞ。まあ、とりあえず、そんな感じで――」
「あ、ちょっと――」
パタン!
なにか言いたそうな真を残すと、まるで逃げ込むように脱衣場へ。
「あーあ……っと」
湯船に肩まで浸かると、俺は歳に見合ったそんな声を発している。
流石に、まだ寝てはくれないかな……。
何気に見えない部屋の方向を向くと、俺はやや頭を悩ませていた。
夜、部屋に二人きりの男女。俺が風呂に逃げ込んでいた理由は、概ねそんな処に集約されるだろう。
ともかく、妙な展開になるのは避けたかった。昨夜と今朝の反省を踏まえ、俺はそう願わずにはいられない。
真は、俺に対しての警戒心が無さすぎる。というより、むしろ積極的にその手な関係を求めてすらいるように感じだ。否、そこは彼女なりの“恩返し”ということなのか……。
いずれにせよ、俺がそこにつけ込むのは大変よろしくない。仮にも一緒に暮らすことを許した以上、そこが大人の男としての責務であるように思われた。
俺にも真にも、互いへの恋愛感情はない。少なくとも今はという意味だが、おそらくこの先も変わらないだろう。妙に懐いてくれてはいても、やはり俺とは住む世界が違う。なにせ俺はそこらに転がっている“オジサン”である。
ならば一時の劣情に身を委ねるのは、駄目だ。そうなってしまえば、生活が次第に爛(ただ)れてゆくのは必定のように思う。
俺の男の部分が、真の笑顔を蝕(むしば)んでしまうかもしれない。それだけは嫌だった。
「考えすぎか……?」
苦笑し、呟く。