ほんとのうた(仮題)
第3章 異常なる日常で
部屋の壁にかけた時計の長針と短針が、てっぺんで重なっていた頃。
ベッドにその背を凭れていた真が、その首をカクンと横に傾げた。
その姿を見て――
「やっと……寝てくれた、か」
俺は酔いで頭をクラクラとさせつつも、胸を撫で下ろしている。酒はそれなりに強い方だと自負するが、そんな当方も既に限界は間近であった。
ちゃぶ台の上には空になったボトルが一本と、それに加えラベルの下方付近までその量を減らした封を切ったばかりの真新しいボトルが。
酔いに任せアレコレと楽しげに話しながらも、真はロックの麦焼酎をしこたま飲んでいた。おそらく潜在的には、俺よりよっぽど酒に強いのかもしれない。その前にも、缶ビールを何本か飲み干している。
やれやれ。今日はいいとしても、毎晩こんなことはしてられないな……。
自分の身とやはり懐具合を懸念しながら、俺は寝息を立てる真を眺め苦笑を零す。そして、右手に握られたままのグラスを、起こさないようそっと取り上げた。
と、その時。
「なにを、ビビってるのよぉ!」
突然そう言い出す真に、俺は取りも直さずビビッてしまうのだが。
「なんだよ、寝言か……」
真が目を覚ましていないことを確認すると、俺はふっと息を吐き呟いていた。
おそるおそると、真をベッドの上に運んだ。紅く火照ったその顔が、とても魅力的に映る。だが、懸命に睡魔の虜となった姿は最早、俺に微笑ましさだけを覚えさせた。
その顔を見つめ、酒に酔ったままに俺は告げる。
「やはり……俺は嫌みたいだ」
もちろんその意味は、真を抱くこと、それ自体がということではなくて。
そうすることで、真に夢中になる己のこと。後になって失うものを、手に入れたと錯覚する――そんな自分自身が心底、嫌だった。