ほんとのうた(仮題)
第1章 孤独(ひとり)と逃避(ひとり)
単にダメージとは言い難いデニムのショートパンツと、色目は派手だが肩の辺りがヨレヨレのタンクトップ。それと今にも足先から外れそうになっている、踵の高いサンダル。デザインはともかく、一様にくたびれて思えた。
それを眺め、俺が下した結論は――
「ヨシ、ほっておこう」
それは、すなわち黙殺。このまま行ってしまおうというものであった。
その判断を最低だと思うなら、どうかご自由に。しかし、いくら肌寒いとはいえ、まさかこの時期に凍死するわけでもなかろう。仮にそうなったとしても、自業自得。まあ流石に、ほっておいてもその内に目を覚ますはずだ。
なにより俺は、現在の己の立場をわきまえなければならない。相手が酔っている以上、俺の行為が思わぬ誤解を生む恐れを危惧すべきなのだ。
彼女を介抱しようなどという仏心を見せたばかりに、それが一瞬にして酩酊する女性への痴漢行為へとすり替えられることだって、十分にあり得る話。
なにしろ目下のところ当方は、無職の中年男である。あらぬ容疑に抗弁しきれぬ可能性は、かなり高まっているように思えるのだ。
ネガティブで慎重すぎるこの性格は、もちろん自覚している。だが、この歳まで独り身でいた男など、多かれ少なかれねじ曲がっているものだろう。
ともかく、こんな場所で呑気に寝入っている方が悪いのだから。
「じゃあ、これにて失礼――と」
俺は小声でそう言い残し、さっさとその場を立ち去ろうとする。
と、そのつもりだったのだが……。
「なあ――風邪ひくぞ」
俺は直後に踵を返すと、まだ顔を伏せたままの女に、そう声をかけていた。
それも俺の面倒な性格によるところであって、もちろん“優しさ”などというつもりはない。後日『公園で女性死亡』なんてニュースを耳にしたなら、それこそ寝覚めが悪いというものだ。