ほんとのうた(仮題)
第1章 孤独(ひとり)と逃避(ひとり)
声をかけて数秒、まだ反応はない。俺はため息を吐きつつ、さらに近づき声の音量を上げた。
「オイ――生きてるのか?」
それでも、ピクリともせず。流石に心配になった俺は、おそるおそると手を伸ばす。肩を揺すって、起こそうとしたのだ。
すると、その時――。
「なっ――!?」
突如として手首をガッと掴まれて、俺は飛び上る程に驚かされてしまう。ようやく動き出した彼女は、まるで蘇ったゾンビさながら。
やっぱり、ほっておけばよかった……。
俺は面倒事に関わってしまったことを、既に予感し始めていた。
「へ、平気みたいで、よかった。こちらとしても、一安心だな」
「……」
「俺は単なる通行人……決して怪しい者じゃないぞ。君になにかしようなんて、そんな風には考えてないから」
「……」
「余計なお世話かとも思ったけれど、一応は……ほら、体調が悪いようなら、いけないと思ってさ……」
「……」
俺は何故か、言い訳じみた言葉に終始している。だが対する女は、終始無言だ。頭を垂れたまま、未だその顔すら見せようとしない。
それでいて、俺の右手首はギュッと握り締めたまま。
「えっと……とりあえず、放してくれない?」
そう言って、ようやく。女は伏せていた顔を、ユラリと起こした。
そして、その第一声は――
「お腹が……へったよぉ」
「は?」
両の瞳をうるうると涙で光らせながら、女はまるで神様にでもすがるように、俺の顔を見上げていた。