無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　まあ、いいか……。と、頭を掻きつつも。俺は引かれていた後ろ髪を断ち切るようにして、部屋の外に出る。

　バタン――と、ドアを閉じた音。それを耳にした刹那だ。俺は真を部屋に閉じ込めたことに、ある種の罪悪感を覚えてしまう。

　この侘しい部屋で、たった一人の時間は、果たして真になにをもたらす？

「はあ……」

　幾分大袈裟に、もう一度深いため息をついて――。

　無力とは知りつつも仮にも真のためをと想う中年は、踵を返すと出たばかりの部屋に引き返していた。

「――！」

　戻った俺をチラリと見る真に――

「ちょっと、忘れていたんだが、今日は職探しよりも大事な用事があるんだ」

「大事な……用事？」

「別に無理強いはしないが――真も一緒に行くか？」

　俺がそう訊ねると、その返事はそれまで以上に俊敏なものとなった。

「うん。行く！」

　それは散歩という単語に反応する、従順な飼い犬の如し。とはいえ、彼女の方はそんなにも扱いやすくはあるまいが。

　しかしながら俺としても、そんな態度を可愛く感じてしまっている自身の気持ちを、今更否定するつもりはないのだ。