ほんとのうた(仮題)
第4章 重ね合うもの
「ねえ、例えば――沢山の木の実をつけた大木があったとして、さぁ」
「いきなり、なんの話だよ」
「ちょっとした、たとえ話。いいから、聞きなさい」
「わかったよ。それで、その大木がどうかしたのか?」
俺が仕方なくそう促すと、真はなんの脈略もないと思えるその話を続けた。
「その木にはね――手の届きそうな低い枝には、小さな実しか成らない。そして、高い枝になるほど、大きな実をたわわに実らせているの」
「あ、ああ……?」
「背伸びをして手を伸ばせば、小さな実を集めることはできそう。だけど、大きな実は背伸びではダメ。精一杯のジャンプをしなければ――それを掴み取ることは叶わないんだ」
「それで……?」
「つまり、私は大きな実が欲しいってこと。そしてそう望むなら一度、身を低く地面に屈まなければならない。その後に、高く飛び上がるために――」
真は車窓から青空を高く仰ぐと、こう続けた。
「私は、たぶん今――そんな時間を、オジサンと過ごしてるんだと思う」
「……」
俺はその横顔を眺め、なんとなく真の話の意味を理解してみる。だが――
それは、お前だから――そう思えるんじゃ、ないのか?
俺はきっと、背伸びを続けて小さな木の実をせっせと集めることだろう。得るものが小さいから、手を止めている暇もない。
そんな己の傍らより、いつしかその大木をも飛び越え、空高く舞い上がってゆく真の姿。俺は不意にそんな光景を、頭の中に思い描いていた。
その時のイメージは、鮮やかで眩しく――それでいて、残酷なもの。