ほんとのうた(仮題)
第4章 重ね合うもの
「ね――私もお参りして、いい?」
「ああ、頼む」
俺と場所を入れ替わり墓の前にしゃがんだ真は、かなり長い間、神妙に手を合わせてくれていた。
雑踏とは無縁のこの地にあっても、それは聴こえるか聴こえないかという小声だった。
「おばあちゃん……ごめんね」
「……」
それを耳にし、俺は思った。
当然ながらそれは会ったこともない、俺の祖母に向けられた言葉ではなく。
『真――それが、おばあちゃんが名付けてくれた、私の名前だから……』
真自身がそう話していた、その人に対する想いの欠片であるのだろう。
真はなぜ、自らのキャリアを擲(なげう)つような真似をしてまで、今こんな処に居るのか。その理由は、まるで見当もつかなかった。
それも当然。アーティストと呼ばれるような人種の抱えるその葛藤を、平々凡々の代表格であるこの俺が察してやれるはずもなかろう。
が、もし仮に――その悩みの根幹が、家族という括りの中での問題であるとするならば、その部分では俺にだって介入する余地があるように思えていた。
とはいえ、俺から根掘り葉掘りと、それを訊ねるようなことはしたくない。それだと、真を追ってこんな田舎まで来ているワイドショーのレポーターと同じ穴の貉となってしまう。まあ、彼らにせよ仕事でしてることではあるが……。
俺は真のことを、もっと知りたいと思うから――先ずは少しだけ、自分のことを語ってみようと、そんな風に考えていた。