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ほんとのうた(仮題)

第4章 重ね合うもの


 俺の親父は若い時分、現在経営する会社の一社員であったようだ。しかし強い上昇志向を秘めていた男は徐々に頭角を現すと、当時の社長に認められその一人娘の婿として迎えられている。

 すなわち、それが俺の親父とお袋ということだった。

 やがて念願叶って会社での実権を手にした親父は、以後の業績を著しく成長させてると企業を上場させるまで至っている。

 とは言ってみても、地方の一企業という域を脱するまでのものではない。おそらくあの親父の巨大な功名心は、現在まで満たされた試しなどないのだ。

 その地方の成り上がり者は、天まで届く程の高いプライドでできている。そんな人間であるから、自分の息子に対する態度も推して知るべしと言ったところか。男ばかりの俺たち三兄弟には、幼少時より次世代のトップとしてのレールの上を歩むことだけを許されるのだった。

 長男は親父を縮小コピーしたような男であったし、末っ子の三男は調子の良い性格をしていて世渡りが上手かった。二人は親父を尊敬し、決められた人生にも疑問を抱くことはなかったのだろう。

 すなわち、そんなことに嫌気が差したのが、次男である俺ということ。そう話せば、能動的動機を以ってそうしたかに思われるかもしれない。

 だが結局のところ、捻くれ捩れ落ちこぼれた半端者が、挫折したという実に有りがちな話にすぎないのだった。

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