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ほんとのうた(仮題)

第4章 重ね合うもの


「貧しい家に生まれたことを快く思ってなかった親父は自らは派手な豪邸を構えると、俺たち息子を自分の生家に連れて行くことはほとんどなかった。だが俺は、質素な生活を頑なに続ける祖母には、誰よりも懐いていたんだろうな。躾には五月蠅かったが、とても気骨のある人だったよ」

「それが、このお墓の……?」

「ああ、俺の父方の祖母。これは余談だが、現在の俺の『新井』という姓は、婿養子となった親父が手放したものなのさ。家を飛び出してからも、婆さんには色々と世話になったよ」

「ふーん……そっか。まだ知った風なことは言えないけど。ともかく、オジサンにも色々あったみたいだね」

「まあ、そうなるか……。ここを訪れて線香を灯すと、不思議と婆さんの漬け物の味を思い出すんだ。上手く言えないが、そんなものが今の俺の原点なのかもしれない」

 否、自分自身がそう思っていたいのだろうな……たぶん。

 些か語り過ぎた気がして、少し照れ臭い。当時はともかく別に今の俺にしてみれば、こんな昔話で感傷的になるのも妙だった。

 とりあえず、俺は俺として今日まで生きている。そう言って胸を張ろうとすれば、今に限ってそれすらも難しくはあるのだが……。

 墓参りに真を連れ出して、こんな話をした動機は他にある。僅かながら俺は自らの心根を晒した。それを受けて、果たしてこの真が少しはそれに倣ってくれたものか……?

 ちょっとした期待を胸にしつつ、俺は真の次の反応を待った。だが、それはどうやら俺が思った展開とは異なるものになろうとしている。

「ウフフフ」

 と、真はどこか楽しげに笑った。

「なんだよ。笑うような話だったか?」

 決して気分を害したわけではなく、単にその感情を読めずに俺はそう訊いているのだが。

「あ、ごめん。でも、違うの。仲間だって思ったら、つい嬉しくなってさ」

「仲間……って、どこが?」

「だって、同じでしょ? オジサンの若い時の話と、今の私ってさ」

 そう言ってニヤッと笑む真の顔を見て、俺は自分の身の上話を聞かせてしまったことを、不味ったかな、と思わず顔をしかめるのだ。

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