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ほんとのうた(仮題)

第5章 騒々しい景色の中で

 ドアを閉めることはもちろん鍵を施錠して完全に自分だけの空間になるからこそ、人は初めて落ち着いて目的を果たすことができる。殊に排泄に些か神経質な俺にしてみれば、それは尚更のことだった。

 であるのだから、先の真の言葉だけを取り上げて、それを否定することはできない。が、ドアを閉めるのは飽くまで他人の存在に配慮しての心理である以上、今、実際に俺を招き入れた状況で「ドアを閉めろ」と言われていることに合点がいくはずもなかった。

 あまりの理不尽に際し、延々とどうでもいいことを考察していた俺は、少し呆然としていたのだろう。

「さっさと、閉めて!」

「えっ、ああ――!」

 ――バタン!

 その強い口調に押され、俺は命じられたままトイレのドアを閉めてしまった。

 再び闇と化したトイレの空間は、現在、俺と真の二人だけ(否、本来そもそも二人いることが可笑しいだろ……)のものとなっている。

 これが青く晴れ渡った気持ち良い天気の日曜日の午後の出来事であると、そう気づき。

 俺は一体、なにを……?

 自らの行いを、内省することを禁じ得なかった。

 便座に鎮座している真の息遣いを狭い密室に感じながら、俺はわけもなく緊張を顕とする。暗がりで換気扇が回り続ける音を耳にしていると、背中にじわっと汗が滲んできた。

 そんな中、真がポツリと囁く。

「ねえ、早くしてぇ……」

 先程までのぞんざいな言い方とは違い、どこか甘えて懇願するように。それは視界がない故なのか、小声ながら脳裏に直接伝達されたように生々しく響いた。

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