触って、七瀬。ー青い冬ー
第9章 木村千佐都の不覚
「千佐都ちゃん」
「あ、佐藤さん」
はじめまして皆さん、
ご存知だと思いますが。
私は木村 千佐都。
「ねぇ明日さ、カラオケ行かない?
男子も来るし、千佐都ちゃんいたらみんな喜ぶと思うんだよね」
この佐藤絵美は、いつもクラスで騒いでるうるさい子。
よくこの学園に入学できたな、と思う。
成績もそれほど良くないらしいし、
親のコネか何かでここに入ったって噂。
ここ朱鷺和学園は超名門、エリートが集まる進学校。ほとんどの生徒の将来は安泰。
私はここに入るために必死に努力した。
今まで1日だって勉強を欠かさなかった。
…この子は何も分かってない。
「ごめんね」
私はいつも通り、優しそうで、人の良さそうな笑顔を作る。
この子にはこれが作り笑いだなんて分かるわけない。
分かるのなんて、たった一人しかいない。
その人以外で、もしこんな子に私がどんな人間か理解されるなんてことがあったら、私は死んでもいい。
「私、生徒会の用事があって放課後は遊べないの。みんな行くなら行きたかったなぁ…。
でもやっぱり、仕事だからやらなくちゃ。本当に行けなくてごめんなさい」
私は、そこらへんの人間とは違う。
だって、こんなに完璧に演じることができるんだから。
優しくて可愛くて、真面目で成績優秀で、清楚で謙虚な木村千佐都を。
「そっかー、そうだよね。千佐都ちゃんいつも忙しそうだもんね。来れなくて残念だけど、また誘うから頑張ってね!」
別に、この子が悪いわけじゃない。
悪気もないかもしれない。
でも私にはプライドがある。
私はみんなとは違う。
青春だとかに現を抜かしてる暇はない。
私は一流の有名大学に行って、外資系企業に勤めて、勝ち組の人生を送る。
そう決めてる。
そのためには、若いこの時間も惜しんでられない。
だって、若さなんてすぐ消えていく。
80まで生きるとして、若くて肌にハリがあるのなんて何歳までだと思う?
この先の人生のほとんどは、シワシワで、体もあちこち痛いまま過ごさなきゃいけない。
もしかしたら、自分がだれかわからなくなるかもしれない。
今この時を楽しんで、あとは人生の冬を耐え忍ぶなんて私にはできない。
今さえ頑張れば、あとは人生、ずっと春。
だから、今は青春なんていらない。
青い冬だって構わない。