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触って、七瀬。ー青い冬ー

第9章 木村千佐都の不覚


そうずっと思ってた。

そうやって、真面目に、ひたすら頑張って生きていればいつか報われるって、そう信じて生きてきた。
私の人生は満点だった。
この先も満点。



だけど、私の真っ白で完璧な人生には、ひとつだけ黒いシミがあった。



私はいじめのターゲットになった。
いじめのリーダーは、あの馬鹿な女。


佐藤 絵美。

カラオケの件を断ってから、佐藤絵美は私にちょっかいを出すようになった。

クラスの女子のライングループから外したり、私の悪口をそこかしこで言っていたり。

あの女は馬鹿なだけじゃなかったみたい。
いじめの才能だけはエリート級にあった話じゃない?
私はそれで傷ついたりしないし、
特に気にもしない。
でも、なんであんな女にみんなが従うのかわからなかった。

「ねぇ、なんで?」

ずっと仲良くしてた、クラスの友達も私を無視するようになった。

別に、珍しいことじゃないから。
全然辛くない。寂しさなんて感じない。
本当に。

だけどやっぱり我慢ならなかったのは、
その女が馬鹿だから。
馬鹿のくせに、みんなを巻き込んで、
くだらないことやって。

私が可愛いから、私の頭が良いから、
きっと嫉妬してるんでしょう。

あの子は頑張ってアイプチして、
化粧して、制服のスカートも短くして、
男に媚び売って、女は仲間に引き入れて、
上手くやってた。

そうやって、自分の存在価値を高めてないと気が済まないタイプでしょ?

わかってる。

私は全部わかってる。
私は頭が良いから。
いじめられるくらい、私は特別で、
尊い存在。

だけどやっぱり、わからない。

なんでみんな、あの女に従うの。



「木村さん?」

「…」

「木村さん、大丈夫?」

「あ…、ごめんなさい、大丈夫。
何かあった?」

私は放課後の教室で勉強していた。
いつのまにかぼーっとしてたみたい。

外は暗くなりかけてた。
私に声をかけたのは、クラスメイトの男子。部活帰りみたい。


「いつもここで勉強してるんだ」

なんか、この雰囲気知ってる。
わかる。

「うん、そう」

私は笑ってあげる。
この男子が何を言おうとしてるか分かってる。

「…」

男子は黙る。
多分緊張してる。

「あの…」

私はセミロングの茶色がかった髪を揺らしながら、男子の目を見つめる。
さあ、どうぞ。

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