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触って、七瀬。ー青い冬ー

第2章 保健室の吐息

「おはよ、七瀬」

高梨が隣に座った。

「おはよう」

僕はいつもより少し声が大きい。

さわやかな朝だった。
昨日まであれほど辛かった、苦しかった朝が、とても美しく見える。

「今日も放課後あいてる?」

高梨が聞いた。
僕はうなづいた。

「今日もピアノ?」

高梨は首を振った。

「いや、今日は部活の手伝いしてもらいたいんだけど…」

僕はすっかり高梨のアシスタントのようだった。

「バスケ部だったよね」

体育の授業で、スリーポイントを連発していたのが印象的だった。

「そう。今日他校と練習試合なんだけど、マネージャーの子が体調崩して来れないって」

「じゃあ僕はマネージャーをするってこと?」


「まあそうなる。けど、大した仕事があるわけじゃないから。できるか?」


「やってみるよ」

僕は内心舞い上がっていた。

「じゃあ、放課後体育館な」

「うん」

僕は楽しみで仕方なかった。
これから、こんな日々が続いたらいいのに。

……

「試合開始!」


「よろしくお願いします」


両チームが整列し、頭を下げる。
僕はコートの外から、ベンチの選手と一緒に試合を見ていた。


「やっぱ高梨先輩速いっすね〜」

後輩の一年が言った。

高梨は相手からボールを奪うと、ドリブルで一気にゴール下まで突進してボールを味方へ繋げる。

そして早くも3本のシュートが入った。

「高梨先輩がいるのといないのでこんなに違うんですね。先輩がいなかった8月なんて、同じ高校に惨敗だったのに。今じゃこの点差ですよ」

高梨がディフェンスの選手を振り切って、ボールを前に送る。

高梨はどうしてこの高校に転入してきたのだろう。あれほど強ければ、強豪校にいたはずだ。それがなぜ、この無名のチームに?

バスケ部には所属しているのだから、家庭の事情なのか。親の転勤に合わせて高校も変えるということは珍しくもない。

こういうことは少し聞きにくい。
考えてみれば、僕は高梨の何を知っているというのだろう。

笛が鳴った。
一試合目が終わったようだ。

選手達が明るい表情で走ってくる。

「七瀬、水配ってやって」

「はい」

高梨の言う通り、マネージャーらしい仕事をした。

「ありがとう」

最後に高梨に水を渡すと、爽やかな笑顔が返された。
僕はその時不自然に顔を背けてしまった。

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