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触って、七瀬。ー青い冬ー

第2章 保健室の吐息




「それじゃあ二試合目はー」

顧問がチームに作戦を指導していた。僕はその輪を外から見守っていた。



コートにふと目をやると、空いたコートで他校の一年がパス練習をしていた。

そこへ、先輩らしき選手がやってきて、一年に話しかけている。

その先輩の方は、試合中何度かファールを取られた選手で、少し攻撃的なプレイをしていた。

それもわざとぶつかったり、足を踏みつけたり、小さくて見つかりにくいものばかりだ。

あの選手はきっと、最初から堂々と勝つ気などないのだ。元々、不正をして勝ち上がろうという魂胆なのだ。

その選手が、こちらに目をやった。
僕の視線に気づくと、僕をじっと見た。

やばい、目をつけられたら大変なことになる。

僕は何故か、いじめられっ子になる才能がある。強いものが弱いものをいじめる。
そのターゲットになるのはいつも僕だった。

選手は僕に向かって歩いてきた。

僕は知らないふりをしようと、モップを掴んで掃除を始めた。

「そこのメガネ」

「…は、はい?」

恐る恐る振り返ると、その男と目があった。

「久しぶり」

僕は目を疑った。
いや、僕はこれが現実なのか、夢なのか、
はっきりと分からなかった。

「俺、覚えてんだろ?中学では仲良くしてくれてどーも」

その男の胸には《香田》と書いてあった。
間違いない、あいつだ。

僕をいじめた、あのリーダーだった。
まさか、対戦相手の高校にこいつがいるなんてしらなかった。


「相変わらず弱そうだなぁ?まぁ、身長は多少伸びたか。2センチくらいか?」

その、馬鹿にするような口調は昔と変わらなかった。僕は思ったよりも平静を保っていた。相手の風貌がかなり変わっていたこともある。

「10センチは伸びたよ」

「あー、そうなんだ。まあどうでもいいけど。それよりお前のチーム、随分良い選手取ってきたみたいだけど、どういう手口だよ」

「高梨は自分からここに転入したんだ」

「そう本人が言ったのか?」

香田は身長が高かった。
僕は170で、高梨は178、香田は高梨よりも背が高いかもしれない。

「いや…本人からは何も」

「じゃあ、お前の高校が何か手を回してた可能性はあるよなぁ?」

「そんなの僕は分からない」

「お前、マネージャーなんだろ?」

「違うよ。今日は手伝いで」

「手伝い?暇なんだな」

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