触って、七瀬。ー青い冬ー
第11章 薔薇の蜜
七瀬はもうすぐ言ってくれるはずだ
翔太より俺の方が良いって
《先生が、いいな》
でも、なんで先生って言った?
あの時。
七瀬は結局、翔太のところに行った
もしかすると、逃げたくて
そんな嘘を言ったのかもしれない
もしそうなら、俺は本当に
嫌われてしまったのか
「…怖かった?あの夜」
七瀬はふるふると首を振って俯いた。
「逃げたかった?」
七瀬は顔を背けた。
「嫌だった?」
また首を振った。
「七瀬、ちゃんと答えろ」
七瀬は目を潤ませて、横目で俺を見た。
「僕は…」
「夕紀先輩?」
襖の向こうから声がした。
部活の後輩だろうか。
七瀬は俺を突き離し、シャツのボタンを閉めた。
タイミングの良い後輩だ。
「入ってもいいですか」
「…はい、どうぞ」
七瀬は正座していった。
俺はその横に足を崩して座った。
「失礼します」
後輩は女子生徒だった。
「あれ、お客様ですか?」
結構可愛い。
「…はい」
七瀬はそう答えて、
赤い耳を隠すように触れた。
「初めまして、私、七瀬先輩の後輩の、
神野と申します」
後輩は正座して、頭を下げた。
「そんなに丁寧にしなくていいよ」
高梨は可笑しそうに笑った。
神野はその顔をじっと見つめてから言った。
「あのー、つかぬ事をお聞きしますが、
もしかして高梨先輩じゃないですか?」
「あ、俺のこと知ってるの?」
「知ってるも何も…」
神野は口元を押さえて恥ずかしそうに言った。
「その、すごく言いづらいんですけど…」
神野は二人を交互に見た。
「お二人はお付き合いしている、
と聞いていて…」
神野はそう言ってから、自分のことのように顔を隠して恥ずかしがった。
「やっぱ出回ってんなぁそれ」
「あ、あの、ただの噂だったら申し訳ないんですけど…」
七瀬は顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
「ちょ、ちょっと二人共、話が見えないんだけど!そんな噂初めて聞いたけど」
神野も慌てて頭を下げた。
「やっぱり噂だったんですね、
ごめんなさい!すごく不謹慎なことを…」
「高梨、噂聞いてたならちゃんと否定してよ!」
「高梨先輩、
やっぱりただの噂なんですよね」