テキストサイズ

触って、七瀬。ー青い冬ー

第1章 七瀬夕紀の感傷




「はぁっ…はぁっ…ぁあ」


枕に口を押し付けた。

ふーっ、ふーっ、という息が枕のカバーに染み込んでいる。

顔が熱い、熱い、熱い、
熱くて気持ちがいい、

この熱さが僕を狂わせる
耳の先が真っ赤になっていると、
視界に入った鏡でわかった。

何も考えられない。
息が足りない。


ああ、気持ちがいい。

「んっ、んんぁっ」

腰が恥ずかしい動きをしていた。

波のように滑らかで勢いが良い。

ずっ、ずっ、ってシーツが擦れる音が激しい。

先端にぬめりを感じた。

シーツに擦れる先が、より滑らかに滑る。

それがもっと気持ちがいい。

僕の不埒な想像と妄想と、

罪深いこの行為を助長するかのようだ。


「はぁっ…はっ…ぁあっ、あぁ」


枕に押し付けても、どうしても声が漏れた。

こんなことをするなんて、

こんな夜中まで起きてまで…


僕は愚かだ。

それでも、それがどれだけ気持ちいいだろう、

どれだけ僕を狂わせてくれるだろう、

どれだけあの人を身近に感じられるだろう、

そう考え始めると、

腰が震えて、背筋がぞくぞくとなぞられたように感じて、

お腹のあたりが疼く。


待ってくれ、僕はこんなに淫乱じゃない。

信じてほしい。

僕は元々、恋すらしたことはなくて、

ましてや誰かに欲情するなんて、

その上、こうして息を荒くするなんて、

愚かだって知っていた。


だから今まで、他人を軽蔑していたんだ。



「ふっ…あっ…あ、あぁ…」



僕の声は泣いているみたいだった。

こんなに気持ちが良いのに、

こんなに腰が震えるのに、

冷静な僕がどこかで目を覚ましていた。


《お前に恋などする資格はない》



「はぁあっ…」



甘い快感が全身を襲った。

空から落とされたみたいに解放されて、

息を落ち着けた時にはもう、

僕は悲しみに浸っていた。






ストーリーメニュー

TOPTOPへ