触って、七瀬。ー青い冬ー
第11章 薔薇の蜜
「…ごめん」
高梨は僕の腕を離した。
「やっぱ、ただの噂か」
「なーんだ、興醒め」
「勝手にやってろよ」
「マジ萎えるー」
数人の生徒がそう言って、その場の空気は一気に冷め始めた。
噂を信じた方が悪いんだろ。
僕の方が興醒めだ。
こんなんじゃ、もう高梨とは一緒にいられない。
それに、こんな風に僕を目立たせてしまう高梨は、嫌だ。
僕達を取り囲んでいた人だかりはどんどん校舎へと流れて、消えていく。
僕は、怒りというか、なんというか。
何故か少し虚しい。
「七瀬先輩…」
神野さんが僕の元に走ってきた。
「すみません、本当に、こんな風に大事になっちゃうなんて思わ…」
冷たい感触が僕の顎を持ち上げた。
「え」
何が起こったのか分からなかった。
唇が暖かくて、それで…
1秒経って、それが高梨のキスだと分かった。
「きゃあぁあああ!」
神野さん、声大っきいよ
高梨は唇を離した。
そして、そのまま僕を抱きしめた。
「…こういうつもり」
高梨、お前本当に馬鹿だ
帰りかけていた生徒達が、神野さんの声で振り向いていて、
僕達のキスも何もかも
全部見ていた
*