触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
私はとてつもなく怒ってる。
「うっ…そ、見てた!?ねぇ!」
何騒いでるのよ、こんな朝から。
私は窓に張り付いている生徒達を横目で見た。
「七瀬夕紀と高梨伊織が、
キ、キス…してる…」
は…、そんなの、人前でするわけないじゃない。
たしかに、二人がキスしたのを作法室で見てしまった。
伊織が珍しく、放課後に体育館ではなく作法室に行くと後輩に言っていたのを聞いて、私はそれを待ち伏せていた。
そうしたら、案の定七瀬夕紀。
で、その二人がキスしてるのを見たわけだけど。
あれは、絶対、人に言えない関係だって思って…た、のに。
まさか、ありえない。
私は我慢ならなくて、人だかりの間から窓を覗こうとした。
伊織と、七瀬夕紀がたしかに、そこに立っていた。
伊織は七瀬夕紀の顎に手を添えて、
押し付けるように唇を合わせていた。
まるで、七瀬夕紀の所有権を主張するみたいに。
「…馬鹿伊織」
伊織はキスをした後、七瀬夕紀を引き寄せて、腕で包んだ。
「は、はぁ、いおりんと、夕紀きゅんが…ホントに、は、あはは、うふふ」
「ちょっと美奈!
…だめだ、この子失神してるわ」
「相当腐ってたもんねぇ、美奈」
「ほんとーに、あるんだねぇこういうの。
二人とも、色んな意味で女泣かせっていうか…。
女の子いくらでも口説けそうなのに」
「だからじゃない?女に飽きたんだよ、きっと」
女泣かせ…
女に飽きた…
たしかに、私は何度も泣いてきた。
伊織が私を好きじゃないのは分かってるし
私はただの遊び相手。
「あ…ごめん、千佐都」
何よ、あんたもどうせ私の悪口散々言ってたんでしょ
私は一応、伊織の彼女だと思われていた。
よく話していたし、キスなんかも人前でさせた。
そうすれば伊織に近寄る人なんていないと思った。
私はこれでも、学園一良い女だから。
「なんか、可哀想」
ポツリと呟かれた言葉を聞いてしまった。
「っ…」
私は早足で教室を出た。
七瀬夕紀、私はあんたに伊織を渡さない。
私は女。
あなたにはない武器をもってるんだから。