触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
「…離して」
高梨なんか、嫌いだ
「離さない」
それ、本気で言ってる?
僕のこと、どこまでからかえば気が済むんだ
全校生徒の前で僕を見世物にして
僕はまた、あの苦痛を受けるんだ
嫌でも思い出す。
香田の顔を。
…奴は本当に僕を好きだったのか、まだ疑問だ。
きっと、あの駅前のキスのことをダシにして、何かを企んでいるに違いない。
なんであの時、香田とキスなんかしたんだ。
あの香田のことだ、演技だって下手じゃないはずで
僕はそれに騙されたんだ。
そして、高梨もまた、僕を苦しめようとしている。
「七瀬、俺は…」
高梨はそこまで言って、口を結んだ。
「…離せ」
こうやって抱きしめて優しくして、
散々なことをした後で、
僕に許しを請うんだろう。
それじゃ、香田と変わらない。
高梨なんかもう信じられない。
好きだから、本当に好きだから、
高梨といるのは苦しい。
だって、僕だけがいつも馬鹿みたいだ。
その蜂蜜みたいな甘い香りとか、
僕を動けなくする鋭い目つきとか、
低くて、たまに甘いその声とか
全部に翻弄されてるのに。
全部に胸が締め付けられて、
苦しいのに、
高梨はいつも知らん顔で、
僕のことなんかおもちゃとしか思ってない
「離せってば!」
僕は高梨を突き飛ばし、
校門から走って逃げた。
なんで、なんで僕が高梨を突き飛ばしたりしなきゃいけないんだよ。
こんなことさせないでくれよ、
頼むから…
酔ってない、狼じゃない高梨にキスをされたのに、
とても苦しい。
いっそ、僕は本気だって…
言ってしまえば、
全部なくなるのに。
それが言えないのは、
僕が弱いから。
言ってしまったら、本当に二度と、
元に戻れなくなるから。
友達なんて言えないから。
高梨が気にしなかったとしても、
僕には耐えられないから。
やっぱり、愛なんて僕には手の届かないものだった。
「…完全に…嫌われた…」
体育館の隅、座り込んでいる高梨伊織。
「おーおー、どうした高梨」
声をかけるのは、三刀屋 慎二。
「…み“どやぁぁあ!」
「っ気持ち悪りぃなぁ何だよ!
まず鼻水ふけよ!」