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触って、七瀬。ー青い冬ー

第12章 赤糸の行方




……


ぷるるるる


「…繋がらない」


画面に《夕紀》の文字がずっと光っていた。


夕紀が帰ってこない。
もう24時を過ぎたのに。

明日は学校だし…
ていうか、今日はなぜあんなに早い時間にうちに帰ってきたのだろう。


ぷるるるるる


「俺のせいかな…」


勇気は笑ったけど、
愛してるなんてあんな表情で言われて、
どう返したらいいか分からなかった。


でも、やっぱりその気持ちはわからないし

俺もだよ、なんて言えるはずもなくて



「早く出てよ…」


呼び出し音に無性に腹が立った。





ピンポーン


「はいはいはい」



俺は急いで扉を開けに行った。


ガチャ、と扉を開けた…

のはいいものの、立っていたのは夕紀じゃなかった。



「…よぉ、変態」




伊織だ。




「お帰りくださーい」


扉を素早く閉めると、間に伊織のデカイ足が挟まられた。


「おい開けろや!」


「嫌だね」


「七瀬に、話があんだよ」


伊織はしばらくみないうちに、俺より大分背が高くなっていた。



「…今、いないけど」


「いるのは分かってんだよ」


「いや、本当に、いないんだって」

伊織は俺の顔を睨みつけていた。


「どけ」


伊織が扉に手をかけて、ぐっと引っ張った。

その力で俺は敢え無く扉から引き剥がされ、伊織が部屋の中に入り込んだ。


「こら、伊織!」


「七瀬…」

伊織は空っぽのベッドを見た。

隠れられるような場所もないし、
夕紀がここにいないことは確実だった。

呆然とする伊織の背中に、
力無く言うしかなかった。

「…帰ってこないんだよ。
何回電話しても出なくて、学校からはとっくに帰ってて。多分、街中をうろついてるんだと思うけど…」


ち、と舌打ちが聞こえた。


「大学出た男が、
ガキ一人の面倒も見れねぇのかよ」


伊織が吐き捨てるみたいに言った。

俺の頭がズキンと痛んだ。
黒いものに、頭の中が塗りつぶされていく。


「なぁ?翔太」


伊織は俺を兄とは呼ばなくなった。

蔑むようなその目は、鏡の中の自分を見ているようだった。

伊織の目は、俺によく似ていた。

…当たり前なのに、それがたまに怖くなる。

伊織が俺の弟だということが、時折
俺の首を絞める。


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