触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
僕は、そんなに重大な犯罪をした覚えはない。
「あの、どこに?」
「乗りなさい」
警察官がそういうので、その車に押し込まれるまま、僕は車に乗り込んだ。
扉がバン、と閉じると、警察官は帽子を脱いだ。
車には、警察官が僕の隣に、
前に二人が乗っていた。
「こんな夜にうろついちゃあいかんよ」
助手席に座るサングラスの男が、窓の外を見て言った。
この人も警察官?
しかし、サングラスに紺のシャツ、長い灰色のコートを着ている姿は、警察官というには少し洒落ていた。
「早く行きましょう」
隣に座っている警察官が運転手にそういうと、僕の手首を取った。
運転手があいよ、と行って車を出した。
「あの、すみません、
僕は何をしたんでしょうか」
帽子を取った警察官の耳に、黒く光るピアスが付いていた。
「これからするんだよ」
僕の手首に、ガチャ、と手錠がはめられた
。
「きちんと指導してやる」
違う、この人達は警察なんかじゃない。
僕は、まだ手錠がはめられていない方の手を鞄の中にそっと入れた。
「おっと」
その手は、素早く掴まれてしまった。
「手荷物は検査してからだ」
警察官の制服を着た男は、僕の鞄を取り上げてしまった。
はっはっ、とサングラスの男が高い声で笑った。
「佐藤、警察役は楽しいけ」
「やめてくださいよ、せっかく調子が乗ってきたところだったのに。
役作りが台無しですよ。
まぁ、本業の立花さんにはいつまで経っても勝てませんけどね」
「佐藤は口がうめぇなぁ。おだててもその坊ちゃんはしばらく貸さないわ」
逃げないと
「へへ、バレました?」
佐藤は僕のもう片方の腕にも手錠をかけようとした。
「やっ、めてください!」
力の限り腕を引き抜こうとする。
佐藤の力は、高梨に比べれば大したものじゃなかった。
これなら逃げられると思って抵抗すると、佐藤はちっ、と舌打ちをした。
「大人しくしてりゃあ良かったのに」
佐藤は運転手から湿った布を受け取った。
「ほら、すぐ楽になる」
佐藤はその布で僕の口を塞ぎ、僕は思い切りその布から出る強い香りを吸い込んでしまった。
「んっ!んんんん!」
これはなんだ、
ツンとして、アルコールのようでもあるけど、全身が痺れた。
そして、驚くほど速く、眠気が体を襲った。