触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
カン、と音が止まった。
「可哀想な子さ」
…そんなこと、僕が一番知っている。
「どーも、…立花じゃ、…立花、薫」
【音声認証完了】
ガーッ、と大きな音がして、
眩しい光が瞼を貫いて、
頭の中まで焼かれているみたいだった。
「ぅあ…ぁ」
思わずうなり声が喉を鳴らした。
「…ああ」
立花の声がまた、
他人行儀に、大人しくなる。
「まだ寝といてな、坊ちゃん」
立花は目薬位の小さなガラス瓶を取り出し、クルクルと蓋を開けた。
タチバナ…カオル…
誰…だっけ…
「しっかり飲みぃ」
口の中に、苦い何かが注がれた。
「んっ…ん」
僕はまた意識を離した。
…………
「はぁっ、はぁっ、はぁ…」
冷たい風だ。
また、今日も、雪。
黄色い電飾が巻きつけられた木々の囲む歩道を走った。
腕を振ると、脇や首の周りを凍らせる風が通り抜ける。
その度に歯がぶるふると震えて、
骨の中まで凍りそうだった。
「くっ…そ、立花ぁあぁ!」
叫んでみても、走る足は速くならないし、
肌はもう感覚がないくらいに寒さでやられているし、俺を見る歩行者の視線も凍えるくらい冷たいし。
俺はあの場所に走っていた。
あのタワーに。
遡ること、7年前…
いや、今はまだ、2時間前でいいや。
「七瀬夕紀をどこやった」
街中走り回っても見つからなかった。
交番に立っていた警官も、そんな子は見なかったと言った。
だとしたら、犯人はあいつらしかいない。
いや、あいつだ。
【久しぶりじゃなぁ。…黒王子】
変わらない口調。
「七瀬夕紀は」
【…坊ちゃんなら無事さ。心配なさんな】
「ったりめぇだよ。どこにいる」
【知らん方がええ言うてんのや】
「そんなことは俺が決める」
ふん、と立花が笑った。
【俺達の家さ】
「俺達の…?」
【黒王子は坊ちゃんを無事救出できるか…
って、少女漫画と違うんやから。
あんたは精々大人しくしときぃ】
ツー、ツー
「大人しくぶっ殺してやるよ」
七瀬が危ない。
………