触って、七瀬。ー青い冬ー
第2章 保健室の吐息
「あ、悪い」
高梨が体を起こした。
「大丈夫?」
床…ドン。
「大丈夫、だ大丈夫大丈夫」
この体制!何!
「なんで突き飛ばしたし」
「耳元で急に話すから!」
「あの体制だと不可避なんだが」
「今後気をつけて!」
左耳を塞いだ。
《七瀬》と耳元で言った声がまだ残っているみたいだった。
「何?耳弱いの」
「そうでもないけど」
高梨が満面の笑みを浮かべた。
「なに?」
高梨は人差し指を唇に当てた。
「静かに」
その指は、僕の左首筋をなぞった。
「ひっあ…ちょ、高梨」
「今の声、」
高梨は満足そうに僕の顔を見た。
「面白い」
「おもちゃにすんな!」
高梨の鳩尾を殴った。
「うっ」
「あ、ごめん」
「ペナルティ追加」
「ちょ」
高梨は首筋から、ゆっくりと耳たぶまで撫で上げた。
「あ…ぁっ」
「静かにして」
「まって、やめて」
「まだ終わってない」
耳たぶに人差し指の爪がつんとたった。
「んっ」
その爪の先が、つーっと耳のふちを辿っていく。
「は、ぁっ」
次の瞬間、指が耳の穴にすっと入った。
「あっやだやだやだ」
「ん?やなの?」
指は、その穴の浅いところをするすると出入りして、耳のふちをくすぐる。
「んっ、んっ」
「耳真っ赤」
「たかな…」
「伊織」
「い…おり、やめ」
指は耳から首筋にゆっくりと降りた。
また、首筋がすっと撫でられた。
「あ、あ、や」
「はい、おしまい」
高梨がにっこりと笑った。
「はぁ…はぁ…」
心臓が止まるかと思った。
「ほら立つぞ」
高梨は片足で立ち上がり、僕を片手で起こした。
「…僕の支えいらなくない?」
「いる」
高梨が僕の肩にまた手を回した。
「…なんだったの今の」
まだ状況がつかめない。
あれは幻想?
「遊び」
「…やらしい」
「お前の声の方がやらしい」
「言うな」
「意外と敏感、なんですねお客さん」
「調子のんな」
「な、な、せ」
「うわぁっ」
耳元でまた遊ばれた。
「うけるー」
「高梨てめぇ」
この頃からかな…
僕達はどんどんおかしな関係になっていった。