触って、七瀬。ー青い冬ー
第13章 愛の嫉妬
………
《愛してる》
「なんだったんだ、あれ…」
「翔太さん、出ましたよ」
風呂上がりの夕紀が、俺に声をかけた。
「ああ、うん」
返事が少しぎこちなくなった。
「どうしたんですか?最近ぼーっとしてますね」
「そう?」
「そうですよ」
夕紀は俺のベッドの端に腰掛け、頭をタオルで乾かしていた。
その灰色に近い髪は、艶があり思わず触れてみたくなる。すっとした鼻筋と、小さい唇が、その横顔を綺麗につくりあげていた。
「…俺も」
夕紀を後ろから抱きしめた。
フローラルシャンプーの香りがした。
自分の言った言葉が、本当なのかわからない。
自分の気持ちがわからない。
でも、そう言わなければ、夕紀が自分の元から消えてしまう気がしていた。
「…」
夕紀は黙ってしまった。
「夕紀」
すると、ふふっ、と夕紀が笑った。
「僕、ずっと寂しかったんです。
親があれだし、友達も作れないし、まあ、
普通の恋愛とかもできないし、当然恋人なんかもできないし。
だから、寂しくないように、自分の世界に閉じこもってました。誰とも話せなくても、自分となら話せるでしょ。
ずっと、色々考えてるんです。
こういう人間になれば、もっと人と交流できるかなぁ、とか、どうすれば好かれる人になれるかなぁとか、こういう人間は嫌だなぁとか、そういうこと。
そうすると、自分の中に基準が出来てくるんです。こういうことする人はダメ、こうできる人は良い、とか、勝手な基準が。
それで、他人のことを品定めしていくようになって、こんな奴にならないようにしようとか、この人の真似をすれば好かれるのか、とか、頑張って観察していくんですね。
でも、それが実は、僕と周りを離してたのかなって、最近気づいて。
だって、そんな風にいちいち、自分の基準で相手を評価するような奴、めんどくさいじゃないですか。そりゃあ、友達もできませんよ。
それって、普通に考えたらわかることなのに、僕は長い間気づきませんでした。
でも、翔太さんとか、いろいろな人と出会って、それに気づけたんですよ。
だって、好きになる時って、自分の中の基準とか関係なく、あー好きだなって思うから。