触って、七瀬。ー青い冬ー
第3章 男子高校生の性事情
駅まで、真っ暗な道を二人で歩いていた。
支えになってない僕は、逆に荷物になっていたけれど、高梨は何も言わずに僕に寄りかかっていた。
「七瀬ってさ」
「うん」
「最初すげぇやな感じだったよな」
「え、すごい悪口」
「だから、最初」
「まあ、それは認める」
「なんであんなだったの?返事ははい、とかいや、とかないよ、とか。そんで目も逸らすし声ちっさいし」
「すごいやなやつに聞こえる」
「実際な」
「んー、なんか、色々やになってた。
あと、お前がうざかった」
「俺がうざかった?ひでぇ」
「だってお前さ、どーでもいい話しかしないし、そのくせなんか人気者だし、男女共に魅了しちゃってますって感じだし」
「嫉妬ですかあ」
「うぜぇ」
「でも嫌いとは違うだろ」
「…」
「黙んな」
「嫌い…ではなかった思う」
「多分二人でピアノの練習始めてから、お前が笑うようになった。それでちょっと、思ってたのと違うかもと思った」
「あれじゃん、《意外と人間っぽい》ってやつ」
「それ。」
「あれどういう意味?それまでは人間ですらなかったの」
「それまではー、生きるために生きてるって感じだった」
「どゆこと」
「お前さー、なんか常に思い詰めてる感じだった。生きてるので精一杯っていうか。
違う?」
それは今もそうだ、
「違くはない」
「だから良かったよ。お前が普通に話すようになって」
「そりゃどーも」
「でもちょっと生意気になった」
「どっちだよ」
「よかったってことだよ。それに弱点も見つけた」
「お前は人の弱点みつけて喜ぶな」
「こんなに高性能なおもちゃはなかなかないぞ」
「おもちゃにすんな」
「でも本当に楽しいんだよな。
従順になっていく様が」
「いつなったよ」
「伊織って呼んだだろ」
「は…」
顔が熱くなった。
「言ったよな」
「言ってないし」
「言ったぞ」
「証拠ないし」
「あるよ」
「は?」
高梨は立ち止まった。
鞄に手を入れ、スマホを取り出した。
「んーと、あーここからだ」
高梨がなにかを押すと、音声が流れる。
【い…おり】
「ほらな」
「な…な…な!」