触って、七瀬。ー青い冬ー
第14章 神の告白
《ねぇ、お願いだから怒らないで》
《周りの目が気になるか?
安心しろよ、
怒鳴ったり殴ったりしないから。
本当はそうしたいところだけどな》
《ねぇ、ごめんなさい、謝るから。
今日だけは一緒にいて。
お願い、まだ帰りたくないの》
《あいつは帰りたくても帰れない》
《伊織…やだ…待って…行かないで、
伊織…》
「…高梨…?」
マスクを外したその人の高い鼻の先は赤く、手袋を外したその手の指は長く真っ直ぐに伸びていた。
「…悪い、どうしても話を聞いてもらいたかった」
おかしいと思っていた。
眼鏡やマスクだけじゃない。
手袋を外さなかったのは
僕がその手で高梨だと気づくと
高梨が知っていたからだ。
「帰る」
僕は席を立った。
高梨が何をしたいのかもうわからない。
これ以上僕の気持ちをかき乱すのはやめてほしい。
香田に好意を示したと思ったら、
学校では木村千佐都とベタベタして
高梨なんか大嫌いだ
大嫌い
高梨は、席を立った僕に言った。
「妊娠したらしい」
「…へ?」
「お前が保健室に連れて行った子だ」
「…いくら冗談でも酷いと思う」
「冗談じゃない」
高梨が僕を見ていた。
その目が揺らぐことはなかった。
「止められなくてごめん」
高梨は謝っていた。
「なんで…高梨が謝るの」
「千佐都が金を渡してたそうだ」
「…嘘だ」
「俺のせいだ。気づかなかった。
ここまでするとは思わなかった。」
高梨がおかしい。
深刻な表情で、冗談を言っている。
あり得ない冗談を。
「いくらでも殴ってくれ。
俺がお前に近づかなければこんなことにはならなかった。
お前も…俺を避けてたのに」
高梨の手が震えていた。
綺麗で、すらっと伸びた指が震えていた。
いつも、その手はしなやかに動いていて
上品なのに、力強くボールを操るのに
今は僕の手よりも震えていて頼りない
「は、はは…」
僕は笑った。
高梨は馬鹿だ。
僕が避けていたのは、高梨が好きだからだったのに。
そんなことにも気づかないで自分を責めたりしている。
高梨が僕を見捨てずに、
一人だった僕に話しかけてくれていたのに
僕が勝手に避けていた。
それなのに
「俺は…馬鹿だ…」