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触って、七瀬。ー青い冬ー

第15章 指先の快楽



「…あ、佐久間さん?
今朱鷺和通りのツリー前なんだけど。
うん、宜しく」

高梨が誰かに電話をかけた。
その通話が一瞬で終わったので少し驚いた。

「佐久間さんって、執事か何か…?」

僕と高梨は、ツリーの前の階段に座っていた。

「執事ってお前」

高梨が吹き出して笑った。

「だって」

「違う。お手伝いしてくれる人」

「ふーん?」

間も無くして、黒塗りの車が僕たちの前に止まった。

プップ、とクラクションが鳴った。

僕達は車に乗り込んだ。


「ありがとう、佐久間さん」

「いえいえ、本日はどちらまで?」

佐久間さんは礼儀正しい紳士だった。

「俺の部屋まで」

「かしこまりました」


高梨がそういうと、僕の肩に手を回した。


「佐久間さん、こいつ、例の七瀬です。
見つかりました。おかげさまで」

「それはそれは、ようございました。
やはり若旦那はいみじき運の持ち主でしたね」

「あれは運っていうのか?
茶道部があることさえ知らなかったけど」

「何の話?」

「俺が転校してくる前…」

高梨が僕の目を見た。

「…」

高梨は僕の頭に手を置いた。
その手が僕の頬を撫でた。
僕の肌の感覚を確かめているみたいだ。

高梨はやっぱり綺麗な目をしていた。
その輪郭とか唇とか
絵に描いたみたいに。


「やっぱり教えない」

高梨は僕の耳に指先を触れた。

「っん…何で」


ずっと君の名前を探して

でも見つからなくて諦めかけていた
高2の夏


ある日、朱鷺和学園の文化祭の日
茶道部にいる君を見つけた

濃紺の袴を着て、真っ白な肌と薄い茶色の目の色

まさかそれが君だとは思いもしていなかったけど

黒板に書いてあった部員の名前の中に
七瀬夕紀という文字を見つけた




「はは、若旦那は時に意地悪ですね。
それともただ恥ずかしがり屋なのでしょうか」

必死に探し回っていた俺を佐久間さんは知っている
そんな事を知られるのは少しきまり悪い

「恥ずかしがり屋…」


七瀬夕紀


その目が潤んでいたのは
君の方だったのに

今は君が俺の隣にいることが嘘のようで
少し目が熱くなったりして


「残念ですね、もう到着してしまいました」




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