触って、七瀬。ー青い冬ー
第15章 指先の快楽
佐久間さんは扉を開けて俺たちを見送ってくれた。
「ありがとうございました」
高梨が先に行ってしまったので、僕は挨拶をした。
「いえいえ。七瀬様とお会いできたこと、
本当に光栄に思っております」
「そんな、大げさですね」
「とんでもございません。
これは伊織様には口止めされていることなのですが…」
佐久間さんは僕に耳打ちをした。
「伊織様は幼い頃、教会で会った貴方に一目惚れなさったそうですよ。当時は貴方を女の子だと思っていたそうで…」
佐久間さんは可笑しそうに笑った。
「そ、そんなの初耳です」
「ええ。伊織様はそれを頑なに隠していたのですから当然でしょう。
この事は私しか知りません。
本当にあの方は想いを寄せる相手のことになると頑固というか、素直じゃないというか、不器用なのです」
佐久間さんがそう言って笑うので、
僕もなんだか笑ってしまった。
「伊織様には内緒ですよ。
知られたら私に雷が落ちますからね」
「はい。ありがとうございます、本当に」
「おい、何やってんだよ」
高梨が戻ってきて僕の手を掴んだ。
「早く来い」
僕は手を引かれながら振り返った。
佐久間さんが手を振っていた。
「引き止めてしまい申し訳ございません。
ごゆっくり」
これから何をされるか、佐久間さんは分かっているのかな。
そんなことを考えて顔が熱くなった。
「おかえりなさいませ、伊織様。
何階をご利用ですか?」
エレベーター前に立つ女の子は、高梨の顔を見て赤面した。
「17」
高梨は僕の手を掴んだまま投げやりに言った。
「か、かしこまりました」
彼女はボタンを押したが、エレベーターは最上階にいる。中々時間がかかりそうだった。
「まだ来ない?」
高梨は急かすように聞いた。
「もう少々だけお待ちください」
「はぁ…」
「す、すみません」
彼女は頭を下げた。
僕は思わず口を開いた。
「謝らないでください。大丈夫。
急ぎの用事でもないですから」
「あ、ありがとうございます…」
彼女は僕を見てまた赤面した。
「急いでんだけど」
「何でそんなに不機嫌なの」
「…っせぇな」
こんなことでイラつくなんて、
高梨らしくない