触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
それからというもの、お礼らしいお礼は貰っていない。
それどころか、今のところはただの雑用係になっている気が…それよりも、色々と酷い。
《えーっと、菅原さん?
…で合ってますよね》
高梨伊織は中々私の名前を覚えなかった。
たまに、他の人を私と間違えたり。
顔すらも覚えていない!?のか!?
じゃあこの人の中で私はどう記憶されてるの!?
《カンノです!
何度言ったら覚えてくれるんですか?》
《ごめん、人の名前とか覚えるの苦手で》
《お爺ちゃんみたいなこと言わないでくださいよ。
まだ若いのに…って、何歳でしたっけ》
《17》
《じっ…?あ、ああ、冗談ですよね。
びっくりした。
高梨さんそう見えなくもないから》
《いや、本当に》
《え…?》
この、色気の塊みたいな人が…?
いや、嘘だ。
でも、わざわざ年齢をごまかす必要があるような理由も見当たらなかった。
《本当だって。
だから別に敬語じゃなくても良いんだけど》
《…》
わ、私より8歳も下……嘘って言って欲しい
《大丈夫ですか?なんか凄い青ざめてるけど》
高梨伊織が私の顔を覗き込んだ。
《あ、は、は》
いや、8歳年下だろうが何だろうが、
この顔で見つめられたら何も考えられない。
《ふ、今度は赤くなった》
また笑った!…とか、表情一つで反応してしまう私はもう病気かな?
《な、馬鹿にしてます…でしょ!》
17だと言い張る高梨伊織の方が、よっぽど大人のように思えた。
《してないし。
やっぱり敬語じゃないと落ち着かない?
俺そんなに老けてみえるかな》
《老けてるっていうより、
子供っぽさがないから…かな》
《そうかな?充分子供なのに》
そう言ってみせる余裕のある表情は、やはり子供とは正反対の怪しげな雰囲気を醸し出していた。
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