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触って、七瀬。ー青い冬ー

第16章 薔薇戦争


私は恐る恐る確認した。

《あの…高梨…さん?
そのボタンは緊急時のためのもので》

彼は当然のようにうなづいた。

《ああ、知ってます》

うーん、この人は理解できているのか?

《だから、コーヒーだとかそのような注文のためのものではなくて》

彼は懲りずに続けた。

《今すぐ飲みたいんですけど。緊急で》

《ですから…》

《今動けないんです。首の傷が痛くて。
飲み物も用意してきたものは全部なくなったし》

やはり分かってはいないみたいだけど
彼が指差したのは空になったペットボトルで、
たしかに首の辺りをさすっていた。

その首には包帯が巻いてある。

一体何があって首に怪我なんかしたんだろう。

…可哀想だけど今日は特に忙しいし。
やはり頑張って自分で動いてもらうしかない。


《すみません。お手伝いしたいところですが
お飲み物はご自分で用意してください。
ごめんなさい!》

私は逃げるようにその場を去ろうとした。

《あ、ま…っ痛》

私を呼び止めようとして体を前に起こした拍子に
彼は首を動かしてしまった。
痛そうに目を伏せている。

《…》

私は立ち止まってしまった。
こんなに困っている人を放っておいていいのか?

《…菅野さん》

彼は立ち竦んでいる私の名前を呼んだ。
そして、私の目を覗き込むように見た。

《駄目…ですか》

彼の目は心なしか寂しそうで潤んで見えた。
傷が痛むのか、それとも…。

彼の目は私の心をぐっと掴む力があるようで
どうしてもその場から逃げることもできず、
ただうなづく決意だけが築かれた。

うん、いい、持ってきてあげようか!
別に下心とかじゃなくて…

《わかりました。今日だけですからね》

今日だけとは言わず、毎日会いに来たいところだけど。

《本当?ありがとう》

ぐっ!またその笑顔…!
元々細めの目がさらに細くなってる。
かわいい…

《い、いえ》

《それなりのお礼はさせてもらうからさ》


にこ、と笑った高梨伊織がどんなお礼をくれるのかなんて想像もつかなかったけれど

その時は呑気に嬉しがっていた。


《それは…どうも》


……













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