触って、七瀬。ー青い冬ー
第17章 My Man
…
「だから、早く戻りなさい!」
私は彼の腕を掴んだ。
近づいて分かったが、彼の身長はとても高かった。
180は悠に超えているだろう。
これで私より一回り下というのだから、
男性というものが同じ人間という種類であるのか
未だに納得できていない。
掴んだ腕の石のような筋肉の感触に驚いて気を緩めた時、彼は背を屈めた。
「菅野さん」
彼は私の目線に合わせたのだ。
まるで幼稚園の先生…なんて、
こんなに色気があったら少し不似合いかも。
彼は私の手を取って私の目を見た。
まるで王子と舞踏会で出会ったみたいだ。
「いつも手伝ってくれてありがとうございます。
わがままも聞いてくれて。ほんとに感謝してる」
彼はそういうと、笑った。
でも、いつもの笑顔じゃない。
なんだ?この違和感は…
彼は首に包帯を巻いていて
今は真っ黒なシャツとパンツを着ていた。
寝巻きらしいが、高校生の持つような代物には見えなかった。
「い、い…え…」
それよりなにより、彼はやはり怪しげな雰囲気に包まれていた。
美しいだけじゃない、不気味な雰囲気だ。
真夜中の月に、紫色の靄がかかったような…
不気味でも、美しいから
ずっと見ていたくなって
時間も忘れるほど…
「お礼、何がいい?」
「…へ?」
彼は微笑んでいた。
真夜中の月のように
遠かった
私は海の底に沈んでいた
彼は空高く輝いていた
「…お礼なんていらない」
私は思わずそう口走った。
彼は困った顔をした。
《 あり得ないから 》
波に飲まれて、息をしようとしても
這い上がろうとしても
押し戻されて流されて
「あの、もう行かないといけないので」
結局また、海の底へ底へと沈んで落ちていく
「あ、菅野さん!」
私は構わずその場を早足で去った
私をなぜか引き止めようと呼ぶ彼は一体
何を考えているのか
それを深く考えようとするとまた
《 身の程知らず 》
そんなことない、そんなことない
彼は年下だし
私をわざわざ痛い目に合わせようなんて思わない、
そのはず
あの頃とは違うし
関係ない
関係ないから
…