触って、七瀬。ー青い冬ー
第17章 My Man
木村千佐都がそういうと、菅野朱莉は少し肩を強張らせた。
それをなだめるように高梨伊織が口を開いた。
「それなら、菅野さんにマイクでもつけておいてずっと録音してればいい。外せないように工夫して」
「はぁ?死ぬまで一生録音してろっての?」
「お前が言ってるのはそういう事だ。
そうでもしなきゃ菅野さんが口外しない証明なんてどこにもない」
「…本当に馬鹿ね」
「お前が、な。そもそも聞かれたくない話をこんな公共の施設でするもんじゃねえだろ。
お前にも落ち度はあった。お前は俺が口外しない自信があったかもしれないがそれだって確実じゃなかった。
自分が犯人だと知られたくないなら俺の記憶も消しておくべきだったな」
高梨伊織は背を曲げて目線を合わせたまま木村千佐都にまくし立てた。
「でもあんたは七瀬夕紀が大好きだからどうせ、
言わないんでしょ?さっき自分で言ったじゃない」
ナナセユウキという言葉に高梨伊織は我に返ったように話を逸らした。
「…こんな口喧嘩して何になる。
お前は結局何しに来たんだよ」
「ねぇ、そんなに七瀬夕紀が大事なの?」
「…当たり前だ」
「じゃあ、
もしあの子が死んじゃったらどうする?」
高梨伊織の影が暗く濃くなったような気がした。
まだ外は明るい14時だ。
そしてこの男もまた青空のようなさわやかな笑顔を見せていたはずだが、それも今は闇の中に消えた。
「…もしそんな仮定をまた一度でも口にしたら、
もうお前に容赦はしない」
くす、と笑い声がした
ふん、どうぞ、と木村千佐都は目を閉じた。
「そうは言っても、やっぱり私を殴ったりなんてしないでしょ?レイプまがいのことはしても」
ん?この女は一体、高梨伊織の何なんだ?
「伊織って優しいから、私がどんなクソ女でも
構ってくれるしキスだって拒まなかった」
「あれは脅迫ありきだ」
一体どんな関係なんだ!
「まあとにかくね?私はなんだかんだで伊織に遊ばれてたってことに気づいたのよ。もちろん私も完全に弄ばれてたわけじゃない。だけど伊織には勝てないって分かった」
「つまり何だ?」
「ねぇ、私のこと本当に一度も好きになったことないの?一瞬も?」
木村千佐都は高梨伊織に問い詰めた。
二人は釣り合っている。
「体の相性は悪くなかったかもしれないが、
人間としては…興味ない」